認知症が進むと、本人はさらにつらいことになります。記憶力や判断力が衰えるだけでなく、実行能力が落ちてきます。なにかをやろうとしても、手足には障害がないのに、うまく言うことを聞いてくれなくなり、やろうとしたことが上手くできなくなるのです。
まず、今までできた簡単な事が出来なくなります。例えば、靴を履くことやズボンをはくことが出来なくなるのです。さらには、パンツをはくのも難しくなります。ですので、パンツははくもののはずなのに、頭にかぶったりして家族を驚かせたりします。靴を履こうとしとしているのに、足がうまく靴の中に入らずもたもたしていることがあります。
あるいは、女性であれば、料理が出来なくなります。普段は献立を考え、必要な材料を買い物し、下ごしらえをして調理に取り掛かるところを、途中から何をすればいいのかが分からなくなるのです。例えば、カレーを作るときは、じゃがいも、にんじん、玉ねぎなどを炒めてその後煮込みます。そのためにじゃがいもは先に洗って水につけておいたり、肉に味付けをするなどの段取りが必要になります。ところがその女性は、切ったじゃがいもを山のように積み上げ、途方に暮れていました。「どうしたの?」の問いに「次に何をしていいのかわからなくてこんな風になった」ということでした。このように料理の技術は保たれているのに、手順を頭の中で組み立てられない、いくつもの複雑な作業(段取り)を一連の調理の流れにのせられなかたのです。ですので、作るのは簡単な同じような料理になってしまいます。また、冷蔵庫には同じ食品があふれるほど入って、乱れています。
このような状態を見つけたら、早めに認知症の専門外来を受診することが大切です。絶対に怒ったり、諭してはいけません。本人は、それをやろうとしてもできなくなっているわけですから。
洋服の着方が間違っていたなら、それとなく直してあげればいいでしょう。靴を履けなかったら「ここにありますよ」などと靴を足元に持って行くのもいいでしょう。料理が難しくなっている場合は、じゃがいもの皮をむく、切ることはできるわけですから、「鍋に入れて、炒めて」などと、次に何をするか具体的に示してやれば作ることができます。認知症の人の問題行動を起こさせないようにするためには、周囲の人たちのうまい対応が大切になります。