認知症の人がひとりで外出したり、道に迷ったりすることを「徘徊」と呼んできましたが、本人からその言葉はやめてほしいとの声が上がり、自治体などで「徘徊」を使わない動きが広がっています。辞書に載っている「徘徊」は、「目的もなく、うろうろと歩きまわること」、「どこともなく歩きまわること」が一般的な説明になっています。
ところが、介護者に言わせると「家に帰ります」とか「会社に行ってきます」などと、その人なりの目的を持って出かけるというのです。介護の現場や家族の間でも「徘徊」の言葉にはなんとなく違和感を持っているのですが、そのニュアンスにしっくり当てはまる言葉が見つからないのが現状です。
厚生労働省は、使用制限などの明確な取り決めはないものの、「『徘徊』と言われている認知症の人の行動については、目的なしに歩いているわけではないと理解して、新たな行政文書や説明などでは使わないようにしている」としています。では、どんな言い換えがあるのでしょうか。その人が歩いている様子から、「外出」「散歩」「お出かけ」「外出中に道に迷う人」「一人歩き」などがあげられます。言葉だけ変えても介護の現実は変わらず、伝わらないという家族の気持ちもあるようです。表面的な言い換えにとどまらず、行動の理由や家族の思いを理解する姿勢が大切ではないでしょうか。
認知症ケアで問題になることの一つに「徘徊(適切な言い換えが見つからないので使わせてもらいます)」があります。日本中で年間1万人もの人が、行方不明になっているということが話題になりました。認知症では、記憶だけではなく、いま自分がどこにいるかという判断ができなくなるので、ひとりで家の外に出かけると、そのまま家に戻ることができなくなり、あてどなく歩き回るしかなくなるのです。
徘徊を誘発するひとつに、家族の理解が足りないことがあります。認知症の人を介護するのは大変です。同じことをくりかえすので、それにいちいち応えていると本当に疲れます。ですから、しばしば認知症の当人を怒鳴ってしまいます。子供ならば怒ることは意味があります。怒られながらいろいろと覚えていくのですからね。でも、認知症の人は反対です。脳の働きが落ちて行くばかりなので、新しいことを覚えることができません。
つまり、怒ってもそれで覚えさせることにはならないのです。逆に、認知症の人は怒られている理由が分からないので、不安がつのるばかり。あげくのはて、こんなにいつも怒ってばかりいる人間たちは自分の家族じゃないと思ってしまいます。そうなると、ここは自分の家じゃないということになり、「家に帰ろう」と自分の家を飛び出してしまいます。これではあてどなく歩くしかなくなります。