認知症の人が介護者を困らせる言動の原因には、忘れることと判断できなくなることがあります。
ところが、認知症の初期には、物忘れはあってもその場の会話や対応は全く問題なく出来るので、まわりからは認知症とは受け取られないことが多いのです。また、認知症の人は自分を認知症とは思っていません。そそて、その感情は全く正常なのです。これがさまざまな問題を引き起越すことになるのです。
忘れることが多くなったと心配した息子夫婦、母親を受診させようと車に乗せてクリニックへ連れてきました。どこも悪くないと思っている母親は、車を降りようとしません。息子は「早く降りて医者に診てもらえ!」と怒鳴っていますが、当人は「どこも悪くないのにいなんで医者にかかるんだ」と言い、一向に動こうとしません。息子は力づくで下ろそうと躍起になっていました。
そんな中、お嫁さんが診察室に来て、日ごろの物忘れの様子を話してくれました。さっき言ったことも忘れてしまうほど物忘れがひどいというのです。買い物に連れて行っても、家に帰ってからは買ったものはもちろん買い物に連れて行ってもらったことすら忘れてしまうといいます。お嫁さんは、「自分は良いのですが主人が怒っちゃって、それをなだめる方が大変なんです。」と。母親は「買い物行きたい。」と言います。主人は「さっき行ってきただろが!」と怒鳴ります。母親は「いや、買い物には一度も連れて行ってもらったことはないよ。」涼しい顔で答えます。その言葉に主人が逆上するという繰り返しとのことです。
医師が駐車場まで出向いて、ご本人と直接話すことにしました。母親は一転し、「まあ、先生こんなところまでありがとうございます。」と言って促されるままに診察室へ入っていきました。ゆっくり時間をかけて話を聞いてもらい、本人は認知症の自覚はないけど、認知症の治療を始めることになりました。この時、自分の話を聞いてくれる人、自分の味方になってくれる人とインプットされたのではないでしょうか。医師との信頼関係はとても重要です。
なんでもなかった母親が突然わけがわからないようになってしまい、息子さんにしてみればなんとかしてもらいたいという気持ちが強いんでしょう。でも怒られた本人こそいい迷惑なんです。言うことを聞かない母親を怒ってしまうのは無理もありません。家族の言うことは聞かなくても、第3者がはいることでうまくいく場合があります。認知症かな?と思ったらまずは、誰かに相談してみましょう。