食事・入浴・排泄などの様々な場面で欠かせない動作は、移動です。移動介助は身体介護の基本ともいえるでしょう。
≪介護のボディメカニクス≫
身体力学(身体の動きのメカニズム)を活用した介護技術のことです。ボディメカニクスを活用すると、相手に不安や苦痛を与えることなく介助できます。また、介助者の腰痛や肩こり等の予防・改善にも役立ちます。
ボディメカニクスの基本
①被介護者の身体を小さく球体に近づける
被介護者の腕を胸の前で組む、膝を曲げるなどして、身体をできるだけ球体に近づけ、接する面を小さくします。力が集中し、介助しやすくなります。
②介助者と被介護者の身体をできるだけ近づける。
双方の重心を近づけることで、移動の方向性がぶれずに一方向に大きな力が働くため、少しの力で容易に介助できます。
③介助者の支持基底面を広くする。
支持基底とは、身体を支えるための基礎となる、床と接している部分を結んだ範囲のことです。介助者が足幅を前後・左右に開くことで、立位姿勢の安定性を高めます。
④介助者の重心を低くする。
介助者が膝を曲げて、腰を落とす(重心を低くする)ことで、姿勢が安定します。また、腰への負荷が小さくなります。
⑤介助者は身体をねじらない。
身体をねじると、重心がぐらついて不安定になり、腰痛の原因にもなるため注意が必要です。介助者の足先を動作の方向に向けると身体をねじらずに姿勢が安定します。
⑥水平に移動する。
ベッド上で移動するときには、身体を持ち上げずに横に滑らせると容易に移動できます。腰だけでなく膝の屈伸を利用しましょう。
⑦大きな筋群を使う。
腕や手先だけではなく、足腰の大きな筋肉を意識しながら介助しましょう。腹筋・背筋・大腿四頭筋・大臀筋などの筋肉を同時に使うことで大きな力で介助できます。
基本動作の介助とポイント
①寝返る(体位交換)~仰臥位(仰向け)から側臥位(横向き)~
介助者は寝返る側に立ち、被介護者の両膝を片足ずつゆっくりと立てます。
被介護者の両腕を胸の前で組んでもらい、無理のない範囲で頭を少し上げて、顔(視線)を寝返る側に向けます。膝と肩を支えながら、ゆっくりと寝返る側(手前)に引きます。
②起き上がる~ベッド上で仰臥位から端座位(ベッドの端に座る)~
寝返る方向の反対側に被介護者の身体をずらし、腕をつけるスペースを確保したら、起き上がる側に寝返り介助を行い、被介護者の身体を側臥位(横向き)にします。介助者は、被介護者がベッドの端に座った際に身体を支えられる位置に立ち、介助者の腕を被介護者の首の下から差し入れ、もう片方の腕は被介護者の膝に添えながら、被介護者の両足(膝から足先まで)をベッドからおろします。被介護者の上半身を起こし、肘たちの状態にしたら、てこの原理を意識し、臀部を軸にして頭が弧を描くように起こします。ベッドの端に深く座ったら(端座位)、倒れないように支えます。
③立ち上がる・座る~端座位から車いすへの移乗~
(立ち上がる)
被介護者の両足が床につくように臀部をずらし、浅めに座ってもらい、被介護者の両腕を介助者の肩へまわしてもらいます。介助者は足を大きく開き、腰を低くし、両腕を被介護者の背中にまわし、介助者の肩を被介護者の胸に合わせ、前傾姿勢(お辞儀をするように)で立ち上がってもらいます。
(座る)
介助者は車いすに近い方の足を軸にして、車いすに向き合うように方向転換したら、被介護者に車いすのアームサポートをつかんでもらい、ゆっくりと浅く座ってもらいます。介助者は車いすの後ろ側へまわり、被介護者の両脇下から腕を入れて、被介護者の上半身をやや前傾させ、少し引き上げるように手前に引いて安定させたら、フットサポートを上げて、被介護者の両足をのせましょう。
④歩く~足腰の弱っている方・歩行が不安定な方~
介助者は被介護者の横に立ち、反対側の手で被介護者の手を下から支えるように軽く握ります。もう一方の手で被介護者の腕や腰を支えるようにしながら、歩調を合わせてゆっくりと歩きます。
注:片麻痺がある場合には、介助者は原則として患側(麻痺がある側)に立ちます。